美容院の内装デザインについて、独立を考えている若手美容師のための基礎知識
流行に敏感な美容師にとって美容院の内装デザインは気になるところ。しかし、インテリアデザインは専門的な分野のため、美容師であるオーナーが深く理解するのは困難だ。実際に内装工事が完成してから、イメージと異なっていた。。といった事例も少なくない。内装工事費は高額なため、やり直すことは不可能であるし、そのままでは自分のお店への愛着も薄れていくだろう。
失敗しないためには、美容院の内装デザインやインテリアついて体系的に把握し、様々な事例を知ることが重要だ。多くを知ることで、コレだと思うデザインがイメージできる。方向性が定まり、思う通りのデザインの店舗が完成すれば、後悔することも無く、新しい店舗を運営するモチベーションも維持できる。
そのためには、内装工事業者やデザイナーに自分の思い描くデザインを形にしてもらうための仕事の進め方も学ぶ必要がある。今回は、これから独立を考えている美容師に向けに、美容院の内装デザインの基礎知識を公開させ頂く。
目次
美容院の内装デザインを体系的に学ぼう
日本には23万軒を超える美容院があると言われている 。チェーン店を除けば、どれ一つとっても同じデザインのものはない。それは、個々の内装工事は、完全オーダーメイドの一品生産だからだ。しかし、多くの物件を注意深くみてみると、ある一定のカテゴリーに分類されることがわかる。 それではそれぞれ説明して行こう。
スケルトン系
スケルトンとは、仕上げが何も施されていない躯体(コンクリート或いは鉄骨の柱や壁、床)がむき出しになった状態のことを言う。仕上げが不要なため、工事費を安くできるとうメリットがあるが、断熱性能が低くなったり、空調効率が悪くなるというデメリットもある。しかしながら、コンクリート打ち放しが醸し出す、独特のエイジング効果は、デザイン的にも人気が高い。
天井仕上げを無くし、コンクリートのスラブや梁がむき出しになっている。この様に、スケルトン系と言われる内装デザインは、決して全てがスケルトンになっているわけではない。部分的にスケルトンを用いることで、空間を引き締める役割をもたせている。また、この物件の特徴は、スチールを曲げて作ったパネルにある。空間を緩やかに分節しつつも、カットスペース、シャンプー台、カウンセリングスペースに連続性を持たせている。スチールパネルの白色とコンクリートの燻んだ灰色との相性も良い。
DONNA 心斎橋店
住所:大阪市中央区西心斎橋1丁目10ー4
主な仕様
天井:RC躯体あらわし
床:大理石
壁:スチールパネル焼き付け塗装
ナチュラル系
ナチュラル系とは、何かしら、自然の要素を取り込んだ内装デザインのことを言う。それは、仕上げ材に木や石などの自然素材を多用したものや、外部空間の自然環境を積極的に取り入れたもの、或いは植栽など自然植物をデザインに取り込んだものがある。
店舗の1階のテナント物件だ。ビルの奥には中庭があるということで、道路から中庭へ向けて外部空間としての通路を作り、そこに店舗が面している。つまり、道路、通路、中庭と3面が外部に面していることになる。外部と面する面積を増やすことで、できるだけ自然との関わりを増やそうとする意図がある。店内は、植栽が施されていて、上手に外部通路との連続性を持たせている。
uraura
住所:名古屋市東区泉3丁目10−4M1ビル1階
主な仕様
天井:EP塗装
床:コンクリート金ごて押さえ
壁:EP塗装
アート系
大胆奇抜な造形で、インパクトある内装デザインをアート系と言う。しかし、ただ奇抜であれば良いというわけではなく、 サロンのコンセプトと、デザインがどの様にリンクしているかがポイントとなる。複雑な形状が多く、造作工事(大工仕事)が多くなるため、内装工事費用は高くなる傾向にあるが、こだわりある世界観を演出できれば、他にはないオリジナルなサロンが出来上がるだろう。
デルタ三角形(心、技、笑)がお店のコンセプトであり、それが内装デザインにそのまま反映されている。エントランスゲートから内装まで三角形のモチーフで覆い尽くされており、非常に個性的な空間だ。また、これら造作物は、カットスペースとコールドスペースを分節する役割も果たしている。コンセプト、デザイン、機能が一体となった案件と言える。
ヘア&メイクURデルタ
住所:東京都港区北青山3丁目9−12 1階
主な仕様
天井:EP塗装
床:クッションフロア
壁:ビニルクロス
シンプル系
無駄なものを徹底的に排除した空間のことを言う。近代建築の巨匠ミース・ファンデルローエの「less is more」という言葉は有名だが、近代においては、シンプルであることがデザイン主流となった。しかし、バブル期において、ポストモダンと言われる、奇抜なデザインが取って代わりつつあったが、バブル崩壊後、再びデザインの主流はシンプルな方向へと移行してる。シンプルとは抽象度が高まるということであり、コンセプトがより明確になるという利点がある。また、シンプル=安価とは単純にならないことは理解しておこう。
カットスペースにはくの字型の鏡張りのパネルが置かれただけだ。シンプル故にオーナーのこだわりが強烈に伝わってくる。その思いは店名にも表れている。この手の空間には、照明や空調などは決して表に出て来ない。そのためには間接照明や、空調を隠すためのテクニックが必要となる。収納スペースとなる白い壁をくり抜いたかの様なシンプルな扉も秀逸で、空間に緊張感を与えている。
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住所:大阪市西区北堀江1−13−21 山本ビル2階
主な仕様
天井:EP塗装
床:モルタル金ゴテ押さえの上 ウレタン塗装
壁:EP塗装
クラシック系
クラシックとは、ヨーロッパ伝統の建築様式を取り入れたデザインのことを言う。昔のスタイルをそのまま取り入れるのでは無く、要素を抽出してそれを現代的に表現することが多い。高貴でグレードの高い空間を演出することが可能だ。しかし、デザインをする上で、古典様式に精通したデザイナーの力が必要となる。
外観のガラス壁面やカットスペースの鏡にはアーチ型の模様を取り入れることで、西洋教会建築のアーチ形状を表現している。また、神殿の巨大柱には椅子を配置し、カウンセリングスペースとして機能させている。鏡や鏡面素材を多用することで、空間が連続する様な工夫がなされ、まるで巨大な神殿の中にいるかの様な錯覚に陥ってしまいそうなデザインだ。
K-two あべのキューズモール店
住所:大阪市阿倍野区阿倍野筋1丁目6−1 あべのキューズモール2階
天井:EP塗装
床:ビニルタイル
壁:EP塗装、タイル、ビニルクロス
ポップ系
ポップ系とは、親しみ易く、誰もが抵抗無く受け入れることができるデザインだ。それ故に、集客を主体とたサロンのコンセプトとの相性が良く、コンセプト作成から、内装デザイン一まで貫して行われることが多い。その場合、サロン運営全体の資金計画が重視されるため、当然ながらデザインの制約も大きい。しかしながら、集客のためのコンセプトとデザインが一体化することで、驚くほどの集客効果を上げることもある。
ブランド設立から内装、webデザインまでトータルに行われた事例。ターゲットは家族連れで、一家が楽しめる様な空間作りの工夫がなされている。カットスペースを隠すパーテーションと待合スペースの椅子は同じモチーフを用いることで、家族の一体感を演出している。
IKKA イーサイト籠原店
住所:埼玉県熊谷市新堀713イーサイト籠原2階
天井:EP塗装
床:ビニルタイル
壁:ブリックタイル
内装デザイン工事を具体的にどの様に進めるか?
イメージが固まればそれをデザイナーや内装工事業者に伝えなければならない。では実際にどの様にして業者を決定していけば良いのだろうか?
アーキクラウドでは複数社による見積り比較を推奨している。1社単独で検討を進めるより見積り比較することで、競争原理が働き、より良い提案、安い見積りを得ることができきる。
業者が決まればデザインについてより細かいイメージについて詳細打合せを行い、工事の着工に向けて準備を進めていく。
弊社が提携するパートナーは美容院の内装工事に強く、多くの優秀なデザイナーが所属し ている。無料で見積もりを受け取ることができるので是非ご利用頂きたい。
まずはイメージを伝えよう
デザインを決める上で重要なのが、まずは自分のイメージを内装工事会社に伝えることだ。しかし、言葉でイメージを伝えたとしても、正確に伝えることは難しい。
最も良い方法は、あなたが思い描くデザインと類似した写真を渡すことだ。写真さえあれば、相手はプロなので、あなたの思いを咀嚼してくるだろう。
さらに良い方法は、実物を相手と一緒に見に行くことだ。現場で具体的に、この素材がいい。この色がいいなど説明すれば、文句は無いだろう。その通りのデザインをしてくれる。
パースや模型でデザインをチェックしよう
内装工事会社やデザイナーがプレゼンで最も頻繁に用いるのが、平面図や立面図、断面図といった2次元の資料だ。プロの目から見れば、図面は空間を最も正確に把握できる媒体だが、専門家は無い美容師にとってそれは難しいだろう 。
素人が空間を認識するには、3次元的資料であるパースや模型が適している。図面に比べて手間がかかるが、その分の時間とお金を惜しむと後々のトラブルに繋がることも多い。
工事が完了してから、思っていたイメージと違う。。。といったことは良くあることだ。
契約前に必ずチェックしよう
契約前には、必ず設計図書(仕様書、平面図、展開図などの図面一式)をチェックしよう。パースなどの3次元資料はあくまでもイメージするためのツールなので、実際の工事内容の基となるのは設計図書となる。
特に仕様書や図面に記載される材料なのどは専門用語ばかりなので、不明点が多いだろう。
しかし、最低でも表面の仕上げの材料だけでも何なのかは把握しなければならない。親切な内装工事会社であれば、実際のサンプルをボードにレイアウトしたプレゼンボードを作成してくれる。
設計図書に記載されている内容は、原則、契約後の変更ができないので注意して頂きたい。(正確には変更できるが、追加料金が発生する可能性が高い)
工事中、工事後のチェックポイント
契約が終了したら、次は工事開始だ。ここで気を緩めてはいけない。工事中でも現場に頻繁に足を運んで、自分のイメージ通りに工事が進んでいるか確認しよう。
特に水回りの配置については、途中で位置をずらしたりなど微調整ができないことが多い。カットスペースとシャンプー台の関係は事前に入念に検討をしよう。
また、図面上では表現できない部分、例えばコンセントの位置、高さも現場で確実にチェックしよう。工事会社に頼めば、現場にコンセントと電気スイッチの位置をテープに貼ってくれる。 こうすれば間違いは無い。
また、工事完了後のチェックも見逃してならない。塗装の剥がれはないか?シールの切れは無いか、什器に傷は無いかなど、細かい部分をチェックしよう。この程度であれば、引き渡し前に対応してくれる。
最後に
美容院はファッションを提供する場でもあるため、内装デザインがコンセプトや資金計画に与える影響は大きい。
それ故に妥協は許され無いし、時間とお金をかけてじっくりと計画を進めて行かなければならない。
今回ご紹介したデザインの事例を参考に、あなたが納得いく内装デザインを進めて欲しい。内装デザインは美容院の生命線ともなる重要な要素だからだ。
執筆
アーキクラウド:建築内装担当:山田