たった5分でわかるクリニックの内装計画と工事費用の重要ポイントとは?
全国の病院と診療所の数は170000程と言われている。日本の病院、診療所数は群をぬいて数が多いこれは医療大国であると共に、非常に恵まれていることを示すものであろう。
さて、今回のテーマは「クリニック」であるが、良く定義を確認しておいた方がよいだろう。明確な違いは医療法により定められているので紹介する。
「病院」の定義は「20床(しょう)以上の入院施設を持つ医療機関」と定められている。(医療法第1条の5第1項)つまり入院患者のベット数が20以上の、比較的規模の大きい医療機関を指す。クリニックについては無床もしくは「19床以下のもの」となっている。(医療法第1条の5第2項)
また、クリニックという名称は「診療所」や「医院」等と一緒で、名称の定義は特になく、自由につける事が出来る。 この言葉の定義からお解りの通り、クリニックとは街にある個人医院を創造してよいだろう。
クリニックと総合病院との違いは、身近な位置づけということになるだろうか。総合病院などは、多数の診療科目も扱えることから患者の数も多く、待ち時間などが長期かすることもあたり前のようにあり、手軽なものとは感じにくい。また、開業医の方が多く、地域に根ざした医療をしているクリニックも多い。
このようなクリニックは、総合病院とは違い、地域に根ざした特徴を持つと共に、経営を安定させる為の手法も兼ね備えていなくてはならない。
ここでは、上記の観点を踏まえつつ、内装に着目して説明をして行きたいと思う。より良い計画の参考にしていただけたらと思う。
クリニックの診療領域とその特徴
クリニックの内装設計をするにあたってまずは、クリニックの特徴を理解することが大前提となってくる。建築物の用途としては、診療所という扱いになってくるが、診療形態を分類してみると「内科」「小児科」「整形外科」「産婦人科」「歯科」「眼科」「耳鼻咽喉科」など多岐にわたる事はお分かりであろう。
当然、診療形態が異なるものであればそこに求められる特徴も異なることはお分かりであろう。ここでは、「クリニック」の診療形態に着目し、その特徴を把握してみたいと思う。
目次
診療科目
まず、「クリニック」の診療科目であるが、以下のように分類されている。
①大分類
・内科
主に身体の臓器(内臓)を対象とし、一般に手術によらない方法での診療科
「クリニック」においては、最も名乗る事が多いだろう。後で説明をするが、内科の中には更に小分類があり、医者の専門分類を内科と合わせて名乗る場合が多い。
・外科
手術によって創傷および疾患の治癒を目指す臨床医学の一分野である
「クリニック」などの小規模な医院においては、手術室などを備えていない事が多く、総合病院や大学病院がその領域を賄っている状態が多いだろう。
②小分類
・小児科
新生児から思春期(だいたい15歳、中学校三年生頃まで)を対象として診療
・産婦人科
・整形外科
・脳神経外科
脳、脊髄、末梢神経、脊椎などに関する臨床医学の1分野。これらの臓器の内科的疾患は概ね神経内科学が担い、外科的疾患を脳神経外科が担うという役割分担がある
・皮膚科
主に皮膚を中心とした疾患を治療・研究する医学の一分科。外用薬、内服などの内科的治療の薬物療法に加えて、手術などの外科的治療も行う。
・屎尿器科
腎臓・尿管・膀胱・尿道などの尿路系、または副腎等の内分泌系、陰嚢内臓器(睾丸・副睾丸・精索)・陰茎・前立腺などの男性生殖器系(女性生殖器系は含まれない→産科学や婦人科学の領域)を取り扱う。
・眼科
・耳鼻咽喉科
顔面から頸部までの臓器である耳、鼻腔、副鼻腔、口腔、咽頭、喉頭、甲状腺等を主に診療研究する医学の一分野
・歯科
歯科(しか)とは、歯または歯に関連した組織に関する疾患を扱う診療科であり、歯科処置の大半は人体に侵襲を伴う外科行為である。
このように、診療科目は多義にわたっており、その医師の専門性などにより複数を賄う医院も多い。しかし、複数の診療科目を受けるとなると専門的な医療機器多数必要となることになり、スペース等が必要になる事には変わりないので、一般的には自分の専門性を一つ示し経営しているパターンが多いだろう。
立地
基本的には「総合病院」などにおいては、全ての診療科目を扱える訳であるが、総合病院だけしかない状態では不都合や不便さが生じる為、「クリニック」の存在意義がある。
「総合病院」は確かに高度な医療技術を提供できる施設になるのであるが、患者数が多大になることや医師の数、診療スペースが足りないなどの理由で、必要としている患者に医療を提供するのに時間等を要するという不便さが生じたりしている。そこで、医療を分散化することの役目を「クリニック」が賄っているという意味がある。
そのように考えると、「総合病院」は緊急的に医療を必要としている患者や、高度技術を必要としている患者にふさわしい施設作り等が必要となる。
対して、「クリニック」の場合だと日常生活において利用しやすいような施設作り等が必要という事になる。
具体的に考えていく事にしたい。
例えば、新興住宅地にどんどん人口が増えているが病院がほとんど無いような状況であればその住宅街に住む人に医療を提供しようと考える訳であるので、その住宅外全域から来院しやすいような立地にあることが望まれる。例えば、商店街があればその一角に設ける事もよいだろう。バス停の近くにある事も良い事である。
ビジネス街などにおいては、仕事の合間に診療を受けたい場合などにおいて、ビルの一角に立地することや駅の近辺に立地することも良い事である。
「クリニック」の目的は当然医療行為ではあるが、患者が来所しやすい環境を作りあげることは極めて重要である。よい立地は地域の健康を医療によって支える事にもつながる事であり、自身の診療所を上手く経営していく事にもつながる物である。
住宅地の中にある事も地医療を支えるという意味では大きな役割を持っている。
また、医院の特徴は一般企業経営とは違い集客を集める広告戦略ができないことである。これは当然だが現実的には患者にきて貰わないと経営は成り立たない。だからこそ、特徴のある、個性のある経営方針が必要となる。
内装を特徴あるものとすることは、印象が良くなるかという意味では非常に大切なことである。
例えば、子供にとっては「クリニック」は怖いものであるとのイメージが極めて普通の感情である。でも待っている時間、診察を受ける時間、楽しむような状況をつくることができたらどれだけ子供にとって良い環境となるだろうか。
内装を考えることは、その力があることを忘れてはならない。
配置室
「クリニック」に必要とされる配置をここでは把握する。
まず、「クリニック」における関係諸室としては、「管理関係」「診察・処理関係」「検査関係」「手術・分娩関係」「入院関係」「サービス関係」に大きく分類される。
①管理関係
・玄関
診療所への出入り口となる玄関部分である。
・待合ホール、受付
まず、診療所に入ると受付をするのが一般的であり、その受付部分である。そして、診察を呼ばれるまで待機する、待合ホールである。
・医院長室、応接室、医局
医院長室は、院長が休息をとったり、研究や調べ物を行う部屋である。医局も医師が診療、検査、治療のための研究や休息の場として必要な場所である。
・外来便所
外来便所は待合ホールに面して設け、採尿便所と兼ねる場合もある。
②診察・処置関係
・内科
診察室では、問診、視診、聴診、触診、打診や血圧測定、また各種検査結果の検討を行い診断を下す。処置室では、主に注射や採血、使用した医療器具の洗浄滅菌などを行う。
内科は、患者数の多い診療科の為、診察室と処置室を隣接すると効率がよい。
・小児科
診察室や処置室の目的行為は一緒であるが、はしかや水疱瘡などの伝染性疾患の患者多く院内感染の恐れもあるため、隔離待合室や隔離診察室があるとよい。
小児科の場合は、付き添い者がいるので、広さは余裕があったほうがよい。
・外科、整形外科
診察室は内科に準じてよい。処置室は、切開・縫合などの簡単な手術や包帯交換、ギブス固定を行うので、余裕のある広さにしておく。
その他の関係諸室には、理学療法室などがあり、専門療法士などの指導をもとに、水治療法、温熱療法、電気療法、光線療法、運動療法、けん引などが行われる。
・産婦人科
診察室と内診室が設けられる。診察室では、問診の他に超音波診断装置などを使って胎児の状態を調べる。また、診察の際、検尿を行うので診察室に隣接して採尿室が設けられる。内診室では、患者は内診台に座って診察・処置を受ける。その際患者の脱着衣に時間がかかることや、プライバシー保護からも内診室内に更衣コーナを設ける。
・歯科
歯科の診察室では、診療台と治療器セットを組み合わせた歯科用ユニットで治療がおこなわれる。また、抜歯後気分の悪くなる患者もいるので休養室を設けたり、その他相談室、ブラッシング指導コーナを設けることもある。
③検査関係
・X線撮影室
診断目的にあった撮影装置を選択、設置している。
・X線操作室、暗室
X線撮影室内の患者に指示、また状況を把握・観察するための部屋である。
④手術・分娩関係
・手術室
手術を行う部屋で、高い洗浄度が求められる空間である。
・前室
手術関係諸室の清潔管理のために前室を設ける。清潔区域と非清潔区域の境界である。運搬車で運ばれてきた患者は、この室で手術室専用の運搬車に移し替えられ手術室に入る。また、医師、看護婦もここを通り、隣接する更衣室で手術着に着替え、手洗い場で手指消毒をしてガウン、ゴム手袋を着用後、手術室に入る。
・消毒室
消毒室は、主に器材の洗浄、組立、滅菌、保管を行う室であり、作業台、流し台、機械戸棚のスペースや高圧蒸気滅菌装置などを置く。
⑤入院関係
・病室
入院を必要とする患者のスペースである。外来通院患者との動線を分離し患者と見舞い客の専用出入り口が通れ、静かで健康的な場所が要求される。
・ナースステーション
病室全体が見渡せ、外部と病室の境目で外来者のチェックができる位置に配置される。
⑥サービス関係
・医療機器を動作させる為の、電力や機械を格納するための機械室等が設けられる。
内装計画の考えかたとは?
今回の記事タイトルは読んでの通り内装を紹介するものであるので、建物の外郭については触れないことにするが、当然建築物であるので、「外壁部分」「躯体部分」「内装部分」という分類で定義される。建物構造は地域や規模などによって様々ではあるが、「木造」「鉄骨造」「鉄筋コンクリート造」などあらゆる可能性が考えられるものである。
ここでは、建物構造は組みあがっているものと仮定し、その内装を組みあげていくことを本対象と定義する。
部屋のプランニング
建築構造が組み上がっていると、使用用途に合わせた部屋のプランニングが必要になる。必要諸室は、前述した通りのものを配置することになるが、それぞれの大きさは医院のコンセプトに関係してくる。それぞれの必要諸室の諸元についてまとめてみたいと思う。
・受付室、待合ホール
受付室は、クリニックの顔となると共に、患者が居心地よく待つ為のスペースとなる。また、待合室から診察室へのスムーズな動線も必要となる。待合ホールは原則として来院者の数で決めるが、一般的には30-40m2は必要である。受付、事務室の大きさは、常駐する職員の数で決定されるが、個人のクリニックであれば1-2名の職員が常駐するので、10m2程度が適当である。
・医院長室、応接室、医局
小規模なクリニックの場合は、医院長室と応接室を兼ねる場合が多く、大きさは事務机、いす、書棚、応接セットなどの必要家具の大きさを考慮して決めるが、一般的に15~20㎡程度は必要である。
・外来便所
採尿便所と兼ねる場合もあるので、待合ホールに面して設ける必要があり、検査室との関連を考慮して計画する。
・診察室
内科の場合は、処置室と隣接して設けるとよい。内科診察室、処置室の大きさはおおむね10~15㎡程度である。外科、整形外科の場合の診察室は処置室も隣接して設けるとよく、外科診察室の大きさは12~15㎡程度、処置室は15~20㎡程度である。
産婦人科の場合、診察室には採尿室や内診室などが隣接しているほうがよく、診察室の大きさは診察台2台で20㎡程度、内診室は内法で1.8×2.7mを最小限とする。
歯科の診療はチェアーの上で行われる、今現在ではプライバシーの問題もありローパーティションで診療ユニットを仕切るのが一般的である。個室を設けることもある。
診察ブースの寸法は2.4m×2.7m程度が適当である。患者は仰向けで診療を受けるため、グレアにならないような照明計画をする必要がある。消毒準備コーナーが、診察室内もしくは隣接する位置に必要となる。バックヤードとなるのでスタッフの動線を考慮のうえ、患者さんの気にならないようにレイアウトすることが大切である。
・X線撮影室
X線撮影室は、X線操作室や暗室と隣接する事が望ましく、室の大きさは機器の寸法とその作動範囲、使い勝手、ストレッチャーなどの動線、周囲とのあきを考慮して決定するが、平面的には25㎡程度、天井高は2.8m程度を確保する。
コンセプトの決定
先程説明をした通り、必要諸室が決まると具体的な内装イメージをつくりあげていく。この内装イメージがそのクリニックのイメージになるといって差し支えないだろう。イメージの策定は、医院長を中心としてつくりあげていくものである。
患者の体の健康を守るというのはクリニックとしての大前提であるのでなかなかコンセプトとして捉えるのは難しいところである。クリニックの数がこれだけ多い環境の中では、内装の表現等によって差別化をする必要性が出てきている。
例えば、「子供が多い地域で、小児科を専門としているから、動物などを壁に描いて子供が落ちつくようにしよう。」「オフィス街の中のビルの中にあり、主に仕事の合間や帰りなどによってくれるクリニックにしたいので、安らげるイメージをつくりたい。」など、ターゲットを明確にしたクリニックづくりも盛んになってきており、クリニックが目指すコンセプトはますます重要になってきている。
事例の紹介
・心落ち着く空間
病院というものは、具合が悪くなったりする中で利用するものなので、患者の気持ちは塞ぎがちである。今までの病院は必要なものだけが配置されているなどの内装等で決して落ち着くような環境とはいいにくかったかもしれない。病院の中が心地のよい空間であれば、次にかかる時はこの病院に来ようかなとの気持ちも湧く物でである。
待合室は、落ちついた雰囲気で気持ちが少しは和らぐかもしれない。
・子供が来たくなる空間
病院には子供は特に来たくないものである。子供が安心できるような空間つくりは特に小児科などにとっては命題であろう。待合スペースに子供がきたくなるような仕掛けが設置されている。
・プライベート感を演出する空間
内装を考える上で、日常とは違った空間を演出する事も大人の患者等にとっては有効的であろう。どのような空間を好むかは、個々の好みによるかもしれないが、医院がコンセプトをもって取り組む事は重要である。
東京の高級地であるが、プライベート感をもった空間を演出している。
法的な制限
コンセプトが明確になっており、いくらこの材料を使いたいという思いがあったとしても、法的に制限されているものを使うことはできない。ここでは、内装計画をするにあたり、制限となるものを紹介していきたいと思う。
建築基準法内装制限
・法35条の2に示す内装制限の規定では、
“(特殊建築物等の内装)
第三十五条の二 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物、延べ面積が千メートルをこえる建築物又は建築物の調理室、浴室その他の室でかまど、こんろその他火を使用する設備若しくは器具を設けたものは、政令で定めるものを除き、政令で定める技術的基準に従つて、その壁及び天井(天井のない場合においては、屋根)の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにしなければならない。
と規定されており。
クリニックは「別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物」に該当するが、診療所においては患者の収容施設を有するものとなっている、入院施設を有するクリニックなどにおいては、該当することがあるので注意が必要である。
また、「政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物」とあるが、俗にいう無窓居室といわれるもので、これは計画によっては十分に有する可能性があるので、注意をしておきたいところである。
保健所指導
診療所においては、各所轄保健所が監督管轄となり適切な運営を成されるようになっている。計画の際においても、保健所に適切な指導を受け運営を心がける必要がある。
ここでは、東京都の葛飾区保健所が公開している、「診療所・歯科診療所の構造設備について H20.10 葛飾区保健所」の内容を紹介する。保健所の打ち合わせとの参考資料にしていただきたい。
診療所等の構造設備
(1)診療所は、他の施設と機能的かつ物理的に明確に区画されていること。
例1 平屋の建物で診療所と居宅が併設されている場合
診療所と居宅の出入口がそれぞれ別にあり、廊下等を共用することなく明確に区画されていること。
例2 2 階以上の建物で診療所と事務所が併設されている場合であって診療所が数階にわたり、かつその最上階に事務所がある場合
診療所と事務所の出入り口がそれぞれ別にあり、かつ診療所内の専用階段と事務所の専用階段が別に設けられている等明確に区画されていること。
例3 ビル内の場合
ビルの階段、廊下等と診療所が明確に区画され、また、他の施設との区画は、原則として天井まで仕切りがあること。ただし、ビルのフロア等の構造上、どうしてもパーテーションによる仕切り等しかできない場合、患者のプライバシー保護等に配慮した構造とすること。
(2)医療機関の各施設は、それぞれ相互に有機的関係を持つべきものであることから、原則として構造上の一体性を保つ構造とすること。
・医療施設を開設する場合、患者の使用することのない事務室、あるいは一定の条件を満たす併設デイケア施設を除き、各部門の有機的関連性があること。
・雑居ビル等の2フロア以上を利用して開設される場合は、フロア間の有機的連関性を確保するため、医療機関の専用経路(直通階段又は専用エレベーター等)を確保すること。
(3)内部構造は、原則として必要な各室が独立していること。
廊下と診察室の区画が判然としない構造は不適当。
診察室について
(1)一室で多くの診療科を担当することは好ましくない
(2)小児科については、単独の診療室を設けることが望ましい。
(3)他の室と明確に区画されていること。診療室が他の室への通路となるような構造は不適当である。
また、診察室と待合室の区画は患者のプライバシー保護等に配慮し、扉が望ましい。
(4)診察室と処置室を兼用する場合は、処置室として使用する部分をカーテン等で区画することが望ましい。
(5)診察室は、医師一人につき一室が望ましい。
(6)給水施設があることが望ましい。
(7)診察室等の標準面積
診察室 9.9 ㎡以上
歯科治療室 1 セット当たり6.3 ㎡以上。2 セット以上は1 セットにつき5.4 ㎡以上
歯科技工室 6.6 ㎡以上
待合室 3.3 ㎡以上
歯科治療室について
(1)他の室と明確に区画されていること。診療室が他の室への通路となるような構造は不適当である。
(2)防塵装置その他必要な設備(防火設備、消火用機械・器具等)を設けること。
(3)その他、歯科技工所の構造設備基準に準じていること。
内装仕上材の紹介
内装仕上材はその医院の特徴を表すものであるが、機能的に必要とされる物も存在する為ここでは具体的な商品等と合わせて紹介する。
床材の種類
クリニックの内装によく使われるものは、ビニル床シートやビニルタイルなどがある。
・ビニル床シート
ビニル床シートは、塩化ビニル材を基材としたロール材で、90cm幅が標準サイズです。床材を部屋に敷き詰め、接着貼等で仕上げる。ジョイント部分は溶接接合をしますので、耐水処理にも優れています。主要なメーカはロンシール、タジマ、東リなど様々です。材料自体が塩ビ製品であるので、耐水性等には優れていますが、医療所を対象とした商品開発も行われており、耐薬品性、抗ウィルス性、抗菌性などのラインナップが準備されています。
以下に商品の一例を紹介する。
・耐薬品性
ロンメディカ(ロンシール)
サニタリウム(ロンシール)
タイヤクフロア(タジマ)
・抗ウィルス性(不特定多数の人々が出入りする施設や建物でウィルスによる感染リスクを低下させる性能)
ロンプロテクト(ロンシール)
・抗菌性(衛生性が求められる施設で、菌やカビの繁殖を防ぐ性能)
ロンリウム(ロンシール)
抗菌パーマリューム(タジマ)
ビニルタイル
ビニルタイルは塩化ビニールを基材としタイル状に形成した床仕上材である。
一般的には30㎝角から45㎝角の大きさである。耐磨耗性、耐久性に優れていて、ジョイントは突き合わせとなる。主要なメーカタジマ等である。ジョイント処理が一つ一つの床材に発生する為、ビニル床シートに比べて難がある。
部屋の特性に適した床材
・待合室
ビニル床タイルやビニル床シートを使うのが一般的である。薬品を取り扱う場所では基本的にはないので、抗菌性等の性能が付いていればよい。耐水性の問題もそんなには心配する必要性もないので、通常のビニル床タイルの使用でも問題ないが、待合室は、受付共隣接をするので、医院の顔となる部分であるので、アクセントをつけた商品でも問題ないであろう。
・診察室
ビニル床シートを使うのが一般的である。求められる性能は、耐水性、耐薬品性、耐抗菌性などであり、性能をしっかり押さえる事が重要である。
壁材の種類
医院の内部の壁仕上げ材として一般室によく使われるのが壁紙(クロス)である。
壁紙は材料区分により
「紙系壁紙」
「繊維系壁紙」
「塩化ビニル樹脂系壁紙」
「プラスチック系壁紙」
「無機質系壁紙」
「その他」
に分類される。
塩化ビニル系が種類も多くよく使われおり、防かび、表面強化、汚れ防止などの機能表示もある。建築基準法の内装制限規制があり、不燃・準不燃・難燃の防火種別もある。
準備室などの水や薬品がとびやすく汚れやすい壁面では耐水性・耐薬品性・抗菌性が高く、汚れが付きにくく拭きやすいメンテナンスにすぐれた材料を使う。
ケイ酸カルシウム系、硬質セメント系などの化粧不燃材で、商品名ではグラサル・ステンド・セラールなどの材料である。これらの材料は板状で規格寸法があるので、ジョイントはシールやジョイナーを使う。
壁材は、器具の衝突や飛散など劣化が進みやすいもので、ぼろぼろの環境下に置かれると医療環境として衛生的であるのかという所に問題が残る。やはり角の部分などは留意して計画を進めておく必要がある。
内装工事分類と概算金額
内装工事も、各種工事分類を持って工事が行われて行く。私共が、歯科医院を訪れてみる姿は、完成された姿を見ているものであり、そこに至るまでには各種工事を行い仕上げの姿となっていく。ここでは、各種工事の内容を説明すると共に、最後に概算工事金額について説明する。
内装工事分類
・仮設工事
工事を行う為にはまず仮設工事というものが大前提として必要となる、これは工事を安全に進める役割をすると共に、作業員が作業を滞りなく進める役割を持つ。具体的に内装工事においては、仕上がり部分を養生するもの、また天井を工事する為の脚立、高い天井の場合などには足場などを設置する。
・下地工事
下地工事とは、内装仕上工事の下地を指すものであり、内装材を取りつけるものと考えて差し支えない。例えば、部屋と部屋を仕切る壁も、仕上げ材が自立している訳ではないので、自立する為の下地材が必要となる。例えば、鉄筋コンクリート壁、鉄骨壁、木造壁、軽量鉄骨壁などである。
・設備工事
歯科医院の中には照明や空調機器をはじめとした、設備機器が設置される。照明機器などは建築構造に埋めこまる為、用途に関係なく設置される。その他歯科医院には、医療機器などが設置される為、その為の配線工事や配管工事が必要となる。
・仕上工事
仕上げ工事とは言葉の通り、表面上に見える仕上げの事である。
このデザインがその部屋の雰囲気を作り出すものである。
具体的には、以下のような建材がクリニックで使用される内装材である。
壁:クロス、化粧板、塗装材
天井:化粧板、塗装材
床:長尺塩ビシート
概算工事金額について
概算工事金額は当然工事業者の裁量によって異なることもあるが、スケルトン状態(躯体が剥き出しの状態)から、内装仕上げ工事、設備工事等を含み概ね30-100万円/坪程度である。ひとつの目安として考えていただきたい。尚、医療機器等の機器材は別途であると考えていただきたい。
以下に各診療科による概算工事金額を掲載する。
X線室有り・・・・・30~60万円/坪(内科・外科・整形外科等)
X線室無し・・・・・30~50万円/坪(耳鼻科・眼科・皮膚科・精神科・心療内科・整形外科・デイケア等)
鍼灸院・整骨院・・・20~50万円/坪
歯科・・・・・・・・40~100万円/坪
テナント工事について
個人クリニックで、建物から全てをクリニックが所有し建設をしている場合などは必要としない話しとなるが、例えば既存のビルを賃貸契約して入居する場合などは、いわゆるテナント工事として工事を行うことになる。これは既存のビルでなくとも、新築の場合においても同様である。
まず体系的な枠組を説明すると、建物の内装部分を除いた工事を請け負う建設会社A、そしてクリニックの内装を請け負う内装業者B、医療機器等の据付工事を請け負うCが存在する。何故このような複雑な仕組みになるかというと、ビルはあくまで賃貸をできる状態になっていることが最低条件であり、そこに何が入るかは想定をしていない。
つまり、スケルトン状態で家主は貸しだせばよく、それ以降はクリニックであればクリニック自身が負担して工事をすれば良いとのスタンスとなる。これがいわゆるテナント工事というものである。
まとめ
現在は、個人診療所も競争の時代となっている、表向きは診療行為と考えると営利的な意味合いは存在しないように考えられるが、事業としておこなっている以上、自身の病院を守る為にも安定的な経営を維持しなくてはならない。現実的には、インターネットなどで条件のよい環境で経営を安定させるコンサルティングを行う会社もあるように、他社との差別化という部分は顕著になってきている。
患者にとっても近くの「クリニック」という認識よりも、「自分にあったクリニック」という認識が強くなってきているかもしれない。セカンドオピニオンという言葉があるように、医療技術が発達してきている中では、的確な診療を求められていると考えられ、内装を考える事は、その決定の為の一助になるものかもしれない。
医療行為というものを提供するのが本来の役割であるので、極端な特徴を持たせる必要性はないが周囲が変化を遂げてきている以上新たに改装等を施すのであれば時代に見合った変化をしていくのが必要かもしれない。
まずは、クリニックに求められるものはなんであるのか改めてみつめた上で、変化をしていきたいものである。