新規開業の内装デザインについて、覚えておくべき基本的な知識
お店の業績の向上を図るには、飲食業ならお店で出す食べものの味が第一に大切であり、サービス業ならお客さまへのサービスのクオリティが第一に大切になるのは、ある意味当然のこと。
しかし、食べものやサービスをお客さまに提供する空間の大切さも、同じぐらいに忘れてはならない必須の事項になる。それくらい店舗の内装デザインは大きな影響力を有している。
食事をするにしても、サービスを受けるにしても、お金を払う以上、気持ちいい快適な空間に身を置いて体験することは、お客さまにとってはメニューやサービスの中身やクオリティに負けずとも劣らない大切な要素であり、それゆえにお店の雰囲気づくりは必須となる。
提供しようと思うメニューやサービスと合ったお店の雰囲気やイメージ、くつろげる空間づくりは、お店のファンづくり、何度も通ってくれる上質な顧客の発掘に大きく貢献するだろう。それぐらい大事なものと言っても過言ではない。
では、そういう自身のメニューやサービスの印象に符合した空間づくりをするために、内装のデザインはどのように考えて、どういう風に想像力を働かせ、具体化していけばいいだろうか。
また、考えた店舗のカタチや空間イメージを実現するためには、誰に、どのように、デザインや施工をオーダーすれば、より自分の想うイメージに近い店舗空間が出来上がるのか。
内装デザインに対する考え方の手順やプロセス、空間のデザインのイメージづくりなど、一連の流れについて覚えておくべき基本的な知識をご紹介する。
店舗を新規に開設する際、コンセプトを考えるのがファーストステップ
飲食店であれサービス店舗であれ、これからスタートしようと思う業態や業種が決まっていれば、そこからコンセプトは容易に導け、決まってくる。逆にそれが曖昧であるとすれば、「どんな店にしたいか」というイメージがクリアにはならない。
この点が最も肝心なので、よく認識して、じっくり考えてみよう。コンセプトとは何かと言うと、それは「あなたの店にお客さまが訪れる理由」ということ。
様々な人があなたの店に自分の時間を使ってまで行こうと思うのは、それなりにその人にとって、あなたのお店に魅力があるから。そして、お店の魅力そのものが、事業の成功の大きなカギとも言えるのだ。
ということで、最も大事であるお店のコンセプトを決めることを、一番に行うようにしよう。レストランなら、出すメニューで、イタリアン、フレンチ、アジアンエスニック、中華など最もベースとなる基本路線は決定していると言える。しかし、それだけではまだまだ不足している。
イタリアンなら、イタリア人が軽くエスプレッソやアルコールを飲んで、軽食をとるというスタイルのバールのようにカジュアルな感じにしたいのか、ドレスコードが決まっているような格式のあるレストランにするのかでも、方向は180度近く異なる。そういう差異こそ、経営者によるコンセプトになる。
そこで、お店の方向性やメニュー、サービス提供の内容を具体的に洗い出し、どういうイメージを考えているかを、できる限り具体的にノートなどに書き出してみよう。その後、少し違うと思うものを削除しつつ絞っていくと、間違いやズレが最小限に抑えられるだろう。
コンセプトの決め方には早道はないので、次の4つの手順を参考に、じっくり練って行こう。
目次
- 1 (1)つくりたい店舗を想像して、ざっとコンセプトを考える
- 2 (2)明確化してきたコンセプトの整合性をチェックする
- 3 (3)イメージ化された店舗のそれぞれのファクターを解析する
- 4 (4)最終形のコンセプトを決定する
- 5 (1)コンセプト
- 6 (2)外見イメージ
- 7 (3)販売予定の商品とサービス
- 8 (4)予算感
- 9 (5)物件見取り図
- 10 (6)店舗に必須の什器
- 11 エントランスにも工夫する
- 12 レジの場所を設定する
- 13 座席数は適正に
- 14 飲食店はホールスタッフ動線、厨房の作業動線を意識
- 15 (1)シンプル
- 16 (2)モダン
- 17 (4)ヨーロッパ系
- 18 (5)北欧系
- 19 ■店舗デザインから完成までのおおよその費用
(1)つくりたい店舗を想像して、ざっとコンセプトを考える
いきなり店舗内のレイアウトのアイデアや配色選びなどからスタートする人もいるが、コンセプトというのはそういう具体的な内容よりも以前の問題である。簡単に「これだ!」と思えるコンセプトは天啓のように降りては来ないので、はっきりしたコンセプトをつかむ前々段階として、経営者であるあなたのお店に対する思い、「つくりたいお店」の全体像を明確にしよう。
そこで、今日からすぐにできることを挙げれば、次のようなことになる。
①自分の目指す業種・業態以外を含む、できるだけたくさんの店舗を観察する
②手に入れられる店舗デザイン雑誌や記事にたくさん目を通す
③そうすると、何となく自分の好きな店舗イメージが少しずつ明確化してくる
④ひとりになって静かな空間でリラックスし、自身が新規に開こうとしている店舗のイメージを思い浮かべる
⑤なぜ店舗を開こうとしているのか自問自答してみる
⑥店舗を開く理由がはっきりしたら、次に自店の商品やサービス内容、想定されるお客さま、その年齢層、店舗の立地など、より具体的な質問を自分に重ねてみる
(2)明確化してきたコンセプトの整合性をチェックする
第一にポジショニングを考えてみる。店舗を持とうと思う地域に同じ業態でどんな店舗があるかをリサーチし、自分の店舗が他店舗と差別化できるかどうかをチェックするのだ。
その方法とは、よくあるチャート方式で、最初に縦軸と横軸を引き、それぞれの軸にキーワードを設定する。このキーワードはあなたの店のコンセプトのベースになる。
例>イメージした店がイタリア系・南欧系の飲食店であれば、縦軸上下には「イタリア系・南欧系」、横軸の左右には「料金が高い・安い」を記入する。そうすると上下左右の最大値は「イタリア系で高い」「イタリア系で安い」「南欧系で高い」「南欧系で安い」の4つの組み合わせのセットができる。
もちろん、このように明確ではなく、実際には各カテゴリーの中間にプロットされるタイプも発生するだろう。
こんなふうにポジショニングを考えていけば、自分が店舗をオープンしたい地域には、どのようなレストランが在るのかを調べるきっかけになり、自分の店舗がその地域で、新しいお客さまを獲得できる存在になれるかどうか、自らが冷静に判断することができるようになる。
(3)イメージ化された店舗のそれぞれのファクターを解析する
積み上げられた店舗のイメージについて、それぞれの要素を言葉に置き換えて解析してみる。自分の店舗の長所、弱点、可能性、不安要素のそれぞれのカテゴリーについてできるだけいろいろな要素を書き出してみよう。
例えば、次のような要素が挙げられる。
長所:開店を考える地域には、同じような種類の店舗がほとんどなく、唯一無二の存在になれる見込みがある
弱点:理想の店舗を開くには、多少資金不足が考えられる
可能性:メニューを広げて、店舗を拡張できる将来性がある
不安要素:高齢の人が増えると、馴染みのない味は支持されないかもしれない
このように様々な角度から検討していけば、より現実的に実現が可能な店舗づくりが明確になってくる。
(4)最終形のコンセプトを決定する
(1)〜(3)を考えていく上で、実行するべきことは、多くの店舗を観察し、より多くの情報を自分の中に積み上げることである。その上で、自分がつくりたい店のイメージを、より一層具体的にしていく。さらに、様々な角度から子細に検討して実現できるかどうかを模索する。このような手順を踏まえて、自分の店舗のコンセプトを決めていくと良い。
店舗デザインとは、お店のコンセプトを伝えるプレゼンテーション
コンセプトを決めたら、自店舗のコンセプトとして相応しいかを再度、確認してみよう。次の項目をチェックし、自店のコンセプトにズレがないか、いま一度、前後左右から確認してみよう。
<開業予定店舗のコンセプト確認チェックリスト>
①店舗のベーシックな形態
・店舗の状態(ビル内雑居、戸建、郊外、車両、宅配、時間レンタル)
・フロア(階段利用かエスカレーターか、路面、エレベーターありなし、雑居フロアか独立フロアか、その他)
・期間限定ならその借りられる期間(数ヶ月から数年など)
・休業日、営業時間など
②商品やサービスにおけるメニュー
・物販メインまたはサービスメイン
・費用比率、面積・設備の設置・配置(収益計画なども同時に)
③客層
時間帯別、曜日別
・往来や集客効果分析など (データ利用、近隣他店・目測基準など)
・客分類別想定価格帯、客分類別滞留時間 (年齢層、時間帯、繁忙と想定される曜日、テイクアウトやサービスなど)
④提供できること
想定購買品目のコンビネーション
・店舗の印象・イメージなど・・・外観から店内で受ける印象
・物販での包装や雰囲気の演出
・店内インテリアや有償・無償サービスのイメージ
などをもう一度、しっかり見直し考え治して、自分の中で整理しよう。これがこの時点でしっかりクリアになっていれば、内装デザインを依頼したとき、自分がイメージしたものから大きく逸脱したできあがりになるのは避けられるはずだ。
内装デザインをプロに依頼する前に整理しておくこと
内装デザインはデザイナーや施工業者といったプロの人たちに依頼するのが通常の工程になる。そこでデザインをお願いする前に、次の項目を整理しておくと話の流れがスムーズになる。
(1)コンセプト
前項までで、自分で想像した店舗のイメージに基づいてコンセプトが完成していたら、デザイナーか施工業者にその内容を伝えよう。口頭で説明するだけでは正しくイメージが伝わらないと思えるようなら、表やチャート、簡単なイラストなどを作成しておき、それらを見せながら説明しても良いだろう。
広告などでよく見られるキーワードなどにできると分かりやすくて良いが、それが的確であるか、相手にちゃんと伝わるかどうか自信がない場合は、補足説明も付けた方が良い。できればダラダラとした長文にならないよう、端的な分かりやすい文章を用意する。
文を書くのが苦手であれば、箇条書きでもOK。もしじっくり話したいのであれば、こちらは口頭でも大丈夫なので何かしら用意しておきたい。
(2)外見イメージ
自分の中で想定していることで、例を挙げれば「親しみやすい木の香りがする落ち着いた雰囲気」「シックで高級感が漂う大人の隠れ家的なスペース」といったイメージ、もっと具体的なディテールとして「厨房が客席からオープンに見える店内」「パリのカフェ風に屋外にテラス席」「販売する商品を展示するディスプレイは、無垢の白木の棚か北欧風の印象のあるもの」というような、細かな要望もあれば伝えよう。
自分の中のイメージをより具体化に伝えるために「仕事に取りかかる前にチェックしてほしい参考店舗」も数軒挙げて伝えると良い。
(3)販売予定の商品とサービス
飲食店なら品目数や提供の方法、営業時間やアルコールの提供の有無など。サービス店舗なら、美容院+ネイルサロンなどを具体的に伝えよう。
(4)予算感
「厨房設備や器材、家具など、どこまでを含んで000万円以内」と、予算の対象範囲を予め明らかにしておく。初期投資を抑えるために、もし幸運にも最適なものが見つかればだが「居抜き物件」を利用するというやり方を一考しても良いだろう。
(5)物件見取り図
開設予定の飲食店、サービス店の店舗の見取り図を予め用意しておく。
(6)店舗に必須の什器
業種によって必須である什器を入手する必要がある。 例を挙げれば、中華料理屋のガス台関連、生鮮などを取り扱う飲食業では保存すべき素材が分類された冷蔵庫などを別途に確保することが必要。さらに、美容室などでは仕切りなどの必要項目と関連什器や、業界固有のものがいろいろとあるので、それをリストアップしておく。
内装デザイン依頼先の選び方
ネットなどで探すと、多種多様な施工業者が見つかるので、何件か良さそうなところを選んでリストアップしておこう。
業者によって飲食店の経験が豊富、美容院のデザインには実績と定評があるなど、どの業者にも各々の強みがあるので、そういった点もチェックして、これはと思うところをピックアップしよう。
気になる店舗デザインを見つけたら、当該のお店にどの業者に頼んだのか尋ねてみる、また知人等の知り合いに、優秀な業者がいたり、以前依頼して良かった会社があれば紹介してもらうのも悪くない。
「ここならば」と思えるデザイン・施工業者が見つかったら、見積を依頼しよう。その際にチェックしたいのは次の8つのポイントだ。これをちゃんと実行してくれるか、頼んだことに誠実に対応してくれるかが選ぶ基準になる。
①保健所や消防法対応の知識があるかどうか
業種によって、いろいろな法的な許認可をもらわなければ開業できない。飲食店系では保健所の許認可が欠かせないし、店舗は不特定多数の人が随時訪れる場所であるため、万一の災害を想定した避難路の確保や消化器・スプリンクラーの設置などが義務づけられる。
こういった取り決めに対応しないと、店舗の開業許可が下りないことが多い。このような店舗の開設の際に不可欠な決まり事に対する知識が豊富であれば、内装デザインにも自ずと反映されるので、安心して任せられる。
②こちらが話した内容を正しく反映しているか
「シンプルモダンな内装とインテリア」と依頼しているのにも関わらず、デコレーションの過多な内装デザインを提案されたり、初期予算が不足気味と話しているのに、かなり予算超過で金額的に膨らんだデザインを提示されたりするような業者では安心して頼めない。
事前に話した内容を正しく聞き取って、意図を汲み取った内装デザインを提示してくれるか見極めることが肝心。こちらからの説明を聞き取った後に、重要項目に関しては反復して確認するような業者なら安心できる。
③質問などのやりとりに疑問点はなかったか
質問したにも関わらず、明確な答えがない、あるいは、やりとりが勝手な思い込みになっているような様子があれば、安心して任せられない。勝手に暴走されると後々面倒になる。あくまでビジネスとして、普通のやりとりができる一般常識を持っている業者かも打ち合わせなどの折に、しっかり見極めたい。
④期日を守るか
「○○日に見積をお渡しします」と返答があったはずなのに、待てど暮らせど届かない。打ち合わせのアポイントメントの時間に遅れるなど、ビジネスにおける常識を弁えているかも見るべきポイントになる。
⑤参考店舗をチェックしに行ったか
こちらの「見ておいてほしい店舗」について、事前にちゃんと足を運んでチェックしているどうか。これは目の前の仕事に対して誠実に取り組むどうかのバロメーターとも言える。それすら実行していないようであれば論外である。
⑥こちらの提示したイメージに合致した提案か
こちらのイメージとかけ離れた提案をされても、当然首は縦に振れない。そういう時間のやりとりは、お互いに無駄とも言える。こちらの話をしっかりと聞いていないことにも繋がるので、あまりにかけ離れた提案であったら、その業者への依頼は考え直した方がいいかも知れない。
⑦変更してほしい箇所にすぐに対応しているか
「ここはいいが、ここはちょっと」など、提案の一部が納得できないこともある。そんなときに、納得できない点と理由を伝えたら快く変更に応じてくれるだろうか。いろいろ理屈を言うばかりで、結局は対応してくれないような業者は選ぶと後悔する確率が高い。
⑧予算に近づけるよう頑張ってくれているか
希望通りの提案であっても、初期投資の予算金額からオーバーしていたら実現は難しくなる。多少のオーバーは何かで吸収できる可能性もある場合があるが、金額的に大きく膨らんでいる提案は却下せざるを得ない。
ところで、飲食店や美容室その他の業種では、地域に応じて若干、指導の内容が異なるケースがある。地域でこのような案件の仕事をたくさん手がけており評判の良い内装業者では、こうした指導に対す留意点、クリアできるような対策の知識も豊富。結果として、是正工事などが生じにくいため、結果的には割安になる場合もある。
成功に導くレイアウトのポイント
店舗に収益性をもたらすためにも、内装デザインは回転率、客単価、従業員の作業効率などの様々な要素に影響を及ぼす。レイアウトに関して留意するべきポイントについて説明しよう。
エントランスにも工夫する
どういう店舗なのか、店内が玄関口から見えると、人は「どんなお客が多いのか、どんな雰囲気か」など大まかなお店の実状が分かり、店に足を踏み入れやすくなる。それとは反対に、飲食店などでは窓際や道路側の席は店内のお客さまには落ち着かない気持ちになることもある。
こういうケースでは、植栽、客席の顔高さに窓があれば、その部分をすりガラスなどに替えて目線を隠すといった配慮をする方が良い。
レジの場所を設定する
飲食店の場合は基本的に会計が終わった時点で、お客さまが外に出られるように入口周辺に設置することがほとんどだ。しかし、繁忙時間帯は混雑することも想定されるので、レジ前はスペースを可能な限り広めに確保したい。
レジの場所は、飲食店ではホールスタッフの動線にも関わってくる。店内のスタッフとお客さまの動線が交差しない位置にレジの設置場所決めよう。
出入金がお客さまの目に触れないようにすることにも気をつけたい。具体的な盗難対策としては、お客さま側からと、スタッフ側からのレジカウンター高さを違えるようにする。このようにして持ち出しや盗難を防止にも考慮する。
座席数は適正に
座席数は1坪当たり1~1.5席ほどが標準的な人数と言われる。座席の間隔も、自分で決めた店舗のコンセプトに合わせて、適正に決定しよう。ゆったりした空間にしたい場合は、坪あたり1人以下になるだろうし、ラーメン店や居酒屋など回転率を上げたい場合は、坪あたり1.5人より多くなる場合も考えられる。あくまで標準と考えて、店舗のコンセプトイメージで決定する。
※以上に挙げたのはあくまでも飲食店のケース。美容院などサービス提供の店舗なら、さらにゆとりがある方が良いだろう。
飲食店はホールスタッフ動線、厨房の作業動線を意識
動線とは、人が店内を動く場合の経路を線で表したもの。スタッフには「スタッフ動線」、厨房には「作業動線」、お客さまが店内を移動するときの経路を 「お客さま動線」と呼ぶ。
ホールスタッフは、 お客さまとぶつからないよう、またスタッフ同士でぶつからないよう、料理を運んだり、下げたりという動作を繰り返す。また、入店されるお客さまと支払いを終えて帰るお客さまの動線が交差しないよう配慮して、店内のレイアウトを決めることが大切。どちらの動線も、できるだけ一方向に向かうような形にすることが理想的だ。
厨房内では「作業動線」が、作業効率の点からも大事になる。オーダーを受けたら、厨房に素早くオーダーを通し、スピーディに調理をし、温かいものは温かく、冷たいドリンクなどは冷たいままの状態でお客さまのところまで運ぶための、近道はどのようなルートにすれば良いかを考えよう。
主要なデザインテイストの解説と事例
飲食系店舗、美容院やネイルサロンなどサービス系店舗の内装デザインには、いくつかのテイストが見られる。それぞれのテイストのデザインポイントと事例を紹介しよう。
(1)シンプル
シンプルな形状のウッド系のデザイン。使用するカラーの数を抑え、無垢の木材の質感とモノトーンか、あるいは落ち着いたカラーをベースの色にして、シンプルに見えるイメージに仕上げている。
高級感はさておき、ナチュラルでフレンドリー、居心地の良い雰囲気を創り出したい店舗におすすめしたい。カフェなどの飲食系、美容院やネイルサロンなどのサービス系にも向いている。
ヘアサロン:できるだけ何も置かず飾らず、カタチも徹底的に草食性を排し、徹頭徹尾シンプルな美しさにこだわった内装デザイン。すべての箇所の色味を統一することで、静謐でエレガントな品格を表現している。
ただ、フラットな印象になりすぎないように、他のシャンプーなどのブースのガラス、椅子、フローリングに黒を採用。ブラックを適宜配することで、空間がピリリと引き締まった雰囲気にすることができた。
レストラン:都心の人気エリアであり、洗練されたカフェや飲食店も多い土地柄から、都会的なイメージを創造することに力を注いだ。そこで、上品でエレガントな空気感をキープしつつ、都会的でありながら、気軽にひとりでもふらりと席に座れるような空間を創り出した。
店内全体は、ホワイトと木の質感を生かした組み合わせ。これをベースにして、最も目を引くのは、無垢の一枚板をそのまま利用した個室の扉。空間のアクセントとして印象的な存在になっている。
(2)モダン
1900年前後に見られるようになったデザインテイストで、現代によく見られる内装・インテリアデザインの「ベース」ともなったスタイル。典型的なモダンデザインでは、当時の金属加工技術が向上するにつれて、スチールパイプやガラスなどを多く用いた硬質的なデザインが特徴となった。企業のエントランスなどで多用され、クールで高級感のある雰囲気が持ち味。
ガラスの壁を立て、空気の流れを自然体で創り出している。立体的でアーチスティックなディスプレイスペースを生み出した。
(3)和モダン系
日本的な雰囲気と欧米のテイストを併せ持つ。古き良き日本の伝統美とコンテンポラリーな建築技術がコラボレーションした、クールで鋭角的に見えるカタチやデザインを言う。
日本庭園などに良く敷かれている石や玉砂利、アジア独特の竹などの自然素材、木の質感が美しい家具、和紙などでできた上品な和風の小物など、いわゆる「和」の安らぎの中に、現代的な味つけを加えることでも「和モダン」的なテイストに近づくようになる。
レストラン:コンセプトは『シックな和の隠れ家』。和を意識しつつもことさらに和を強く押し出しすぎず、現代的でクールな雰囲気を創り出している。その成果か、くつろげるおとなの空間と和める環境が創造された。
飲食店:チェーン居酒屋の落ち着かないザワザワしたイメージをなくすことに注力し、女性でも気軽にふらりと入れる親しみやすい空間デザインに。リラックスできて和の無駄をできるだけ排したシンプル美と、どこかに温もりのある空間という方向性で構成している。
店舗:木材をふんだんに使用したあたたかみのある空間となっている。自然の趣と、風情のある空間演出に今までとはひと味違う和の味わいのあるモダンな店舗空間を創り出した。
(4)ヨーロッパ系
ヨーロッパと一括りにはできないほど、イングランド、フランス、イタリアなど国や地域によって雰囲気は異なるが、総じて上質で品良くまとめられたテイストを言う。色合いは控えめだが、什器の意匠などが凝っているなど、ディテールに上品さが漂う。ただし、南欧のテイストはヴィヴィッドな色があふれ、明るい楽天的なイメージが主流になっている。
セレクトショップ:全体的にシンプルで、一見雑然とした雰囲気を計算して仕上げている。それでいて、余白に当たるスポットライトがあたたかさを感じる。パリの街並みを感じさせる内装である。
飲食店:異空間な場所を思わせる、遠くヨーロッパの古城にも思えるインテリアを施し、ゴージャスな時間・空間を演出するスペースである。
(5)北欧系
おしゃれな内装インテリアの代名詞のひとつで、英語では「Scandinavian modern」、「Nordic modern」=「北欧系モダン」。モダンデザインの延長線上にあって、歴史的には1900年前後に見られるようになってきたモダンデザインが、1930年~1970年頃にかけて、北欧文化の中で独自に発展してきた。モダンデザインが基本にあり、さらに北欧らしく大自然や人間らしさを感じるデザインテイストとして人気がある。
店舗:ナチュラルな木の風合いと緑や植物をシンプルに配置し、一つ一つの素材を大切に丁寧に扱っている。やわらかな光が入りこむ清潔感の感じられる空間になっている。
カフェ:ノルウェーの街角にありそうな印象のカフェ。ペンダントランプ、家具に北欧系デザインを配し、北欧風のイメージに仕上げている。壁や家具・什器にも、古い北欧らしい、モダンな雰囲気のものを使い、温もりの感じられるくつろぎの空間を創り出している。
(6)オリエンタル
東南アジアのコロニアル風イメージがベースの内装デザイン。竹などアジアでは多く採れる素材や、独自のモチーフや製法でつくったファブリックを利用。ゆったりした暖かな空気、ゆるやかな風のそよぎなどが想像できそうな、リラックス感のあるデザインになっている。
レストラン:アジアのリゾート地に訪れたかのような空間を演出。店内からは活き活きとした緑が楽しめる。亜熱帯の太陽を感じさせるオレンジの間接照明を使って、リラックスできる空間を演出した。
内装デザインの依頼
店舗をオープンする物件が決まり、店舗のコンセプトや内装デザインのテイストが固まったら、次はデザインを依頼するという手順になる。
店舗の内装デザインだけ受注するデザイナーや建築士が運営している設計事務所、あるいはデザインから施工まで一貫して引き受ける施工会社など、いくつかのパターンがある。デザイナーや建築士だけの設計事務所に依頼するときには、施工会社とも別途の打ち合わせが要る。
①デザインを発注する
物件の概要、希望するデザインの詳細を打ち合わせする。
②デザイン提案を受け取る
依頼すると、デザイン画やパースを制作してくれる。だいたい1〜2週間後くらいが製作期間の目安。予算通りかなど費用面も検討する。
③具体的に決定する
デザインの提案を、こちらの希望とすり合わせながら、より具体化させて、最終的に決定を出す。その後、設計図の作成に入る。次に具体的な材料・什器などが予算内で収まるように打ち合わせる。
施工を行う業者の選定と費用
施工会社は自分でネットなどを利用して探す他に、デザインを担当してくれたデザイナーや設計事務所などからの紹介を受けても良い。その方がデザイナーなどと気心が知れていて、スムーズに仕事が運ぶ場合もある。
依頼前にできるだけ2〜3社から相見積もりをもらう。もし可能であれば、見積の感触が良かった施工会社の手がけた物件を見学に行くと良いだろう。大まかな技術力の判断にも良い。
そして、施工会社の手がけた店舗の経営者に、施工会社について工事の話などを聞かせてもらうのも方法だ。見積はできるだけ、詳細に金額が書かれている方が良い。見積以外に何かの費用が発生するかも確認しよう。
店舗の施工経験がたくさんあり、様々な業種の工事に携わったことのある業者か、美容院なら美容院の施工経験が豊富な業者かなど、技術力や、すでに依頼した人の話、自分の店舗の業種によって最も納得のいく業者を選ぼう。
また、見積に対する質問に快く回答してくれるかも要チェック。納得のいく見積金額と内容、技術力、過去に携わった店舗経営者の話など総合的に見て、また費用・工期も問題ないようなら契約書を正式に交わして依頼しよう。後は開店希望日に間に合うように着工することになる。次に、デザイン料と施工費用の目安を挙げておく。
■店舗デザインから完成までのおおよその費用
<デザイン費用の目安>
店舗全体の内装工事費のだいたい10〜15%程度。
※あくまでも目安の金額。デザイン費用はケースバイケースである場合が多く、また、施工だけでなく什器・家具等の製作も含めて行っている会社であれば、設計料を抑えたり什器等の製作費を抑えたり、トータルな予算に応じて調整してくれることもある。
<施工費用の目安>※基本はスケルトンの店舗用空間
- 雑貨店・クリーニング、治療院など設備が比較的シンプルな店舗
15〜20万円/坪
カウンターやレジカウンター、壁面の棚など、シンクやシャワー台など水まわりの設備が不要で、複雑ではない店舗の場合。
- 美容院、ネイルサロンなど水まわり設備を備える必要のある店舗(10〜30坪程度)
30万円〜/坪
シャンプー台など、水まわりの設備がいくつも設置しなくてはいけない場合、店舗のスペース自体はあまり広くなくても割高になる。
- 厨房設備が必要な飲食店舗(10〜30坪程度)
35万円〜/坪
大型のオーブンや、石窯など特殊な厨房設備を導入する店舗は、さらに費用がかさむ場合もある。
- 医院などレントゲン室等の設置が必要な店舗(20〜50坪程度)
45万円〜/坪
レントゲン、CTなどの医療機器・設備を設置するときは、特殊な施工が必要になるので費用はどうしても嵩む。
なお、店舗の施工工事の支払いのタイミングとしては通常、デザインと施工費は設計が完了した時点と引き渡し時点に分割で支払う。また、施工費は引き渡し時に支払うのが一般的だ。
しかしこの支払時期に関しては、デザインする設計事務所、施工会社によっても異なるので、契約時に相互で確認し、双方納得したうえで、支払い時期を決めておくと無用なトラブルが避けられる。
まとめ
店舗の内装デザインは、あなたの店舗のイメージを決定する、非常に重要な要素のひとつ。自店のコンセプトをきちんと組み立てて、自分のつくりたい店舗のイメージを明確化してから、デザインを頼むようおすすめする。そうすれば、自分が頭の中に思い描いたイメージと現実のズレや差異が、最低限に抑えられる。
内装デザインのテイストはお店の提供するメニューやサービスを、さらにイメージアップするとともにお店の居心地の良さにも寄与し、お客さまに「また来たい」と思わせるという大事な役目もある。できる限りメニューやサービスの内容やイメージと乖離しないように気をつけたい。
内装デザインとお店のイメージがぴったり合えば、どこにもないあなただけの店舗空間が完成する。様々な点を多方面から十分に考えて、最適なプランをデザインしてもらおう。そして質の高い施工工事との相乗効果で、あなたの新しい店舗がお客さまに愛され、成功へと導びかれることを願っている。